誰か側にいて欲しい時。



アンタは俺の隣にたたずんで



ただ、俺の為に



貴重な時間を費やして。



その胸に顔をうずめると優しく抱きしめた。



そして唇に触れる暖かいモノ。



俺はそのまま瞳を閉じた。



【貴方といる時間】



窓から外を眺める。
先ほど起きた惨劇のことを思い出す。
単独で乗り込んだ先。
暴走した錬金術師が自分の欲の為に、失ってはいけない命を犠牲にした。
大量の子供だったものの死体。中途半端に練成されたキメラ。
そして大量の血…
見るも無残なその場所で俺はその暴走した錬金術師をどうかしようとしていた。
だけど止めてくれたのは大佐で。
アノ子達の為に出来ることはしたのだろうか?
そんなことを思っているうちに俺は…
「くそっ」
壁を叩こうとした瞬間、その手を強く掴まれた。
「壁に当たるのはやめてくれないか?」
耳元に響く声。
軍服からラフな衣装に身を替えた大佐だ。
「離せ」
俺は手を払いのけるとその相手から離れた。
「先ほどまでは素直だったのにな」
口元を吊り上げ笑みを浮かべる。嫌味なほどにその姿は似合っていて。
それでいてムカツク。
「ドサクサにまぎれて変なまねしやがって!」
受け入れてしまった自分が悪いのは解っている。
その暖かさに身をよせてしまった。
「もう一回してみる気はないかね、鋼の」
「ふざけるな!二度とゴメンだ」
ソレは残念といかにも残念じゃない言い草で大佐は俺の隣に並び外を眺めた。
「…三割は身元が割り出せなかった」
「…」
「今日は泊まっていけ。私は別室にいる」
そういって俺の肩に軽く触れ、大佐は出て行った。


今にも泣き出しそうな空から
大量の雫が降り注ぐ。
まるで先ほどの惨劇を悲しむかのように。
俺はその空を眺めていたがふっと思い立ったようにその場から背を向け部屋を出る。
自分ばかりが悔しいのではない。
アイツだって相当悔しかったに違いない。
それなのに"大人"の部分を俺に見せ付ける。
消して崩すことのない表情。
ソレを見分けることが出来るのは唯一、いつも側にいる彼女だけだろう。
「たまには泣き言ぐらい言えってぇーのっ!」
小さく呟きながら部屋のドアをノックする。
返事も無くドアが開く。
「なにかね?」
「…入っていいか?」
「別にかまわんが…一人でいるのが嫌になったのか?」
そしてにやりと口元を緩める。意地悪そうな表情に俺はムッとしながら、大佐に食って掛かる。
「それ、アンタだろ?」
その言葉に、意外な反応を大佐は見せた。
「…私がか?」
でもすぐにいつもの大佐に戻る。
「侵害だな」
そういって大佐は俺を中へと招き入れた。
中に入ると暖炉の近くに立つ。
大佐といえばポットから温かい飲み物をついでくれる。
何も出来ないかと思っていたが意外とお茶を入れるのか上手い。
一口飲むとソレをテーブルの上に置いた。
「何故、私が一人では寂しいと思ったんだ」
「…アンタらしくなかったから」
いつもならば、彼のペースにはめられているところなのだが…
今日はまったくと言っていいほどソレが無い。
「俺は中尉みたいなことは出来ない。だけど…少しは頼ってくれたって…」
「…ふっ。今日はずいぶんと可愛らしいことを言ってくれるのだな」
身長だけだと思ったぞ。と余計な事を口にする。
「うるせぇっ!誰が豆だって!」
身長のことを言われて腹のたった俺を、ふいに大佐は真面目な表情で見つめる。
「すまない。甘えさせてもらおうか」
「たい…さ…?」
ふわりと肩に顔をうずめてくる大佐に俺は驚き…そして髪を撫ではじめた。
「鋼の…ありがとう」
「…お礼をいうなんてアンタらしくない」
「…そうだな」
大佐の顔が近づく。
俺と大佐と二度目のキス。
深くそして絡みつくようなキスは俺を熱くする。
漏れる声。
そして大佐の声が耳元で。
「いい…?」
「きょうは…とくべつ…だからな…」
大佐はいとも簡単に俺を抱きかかえるとベットへと向かった。








さっきはアンタがくれた貴重な時間。




今度は俺がアンタの為に。




一人で寂しい時。




今度は俺が一緒に。





END

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