「闇と光」



窓を叩く風と雨。
静かな部屋に響く音。
そして闇。
夢の中で襲い掛かる悪夢に起されて、気が付いた。


今の自分にはこの闇が辛過ぎて。
忘れたい過去を鮮明に蘇らせる。
(また、負けてしまう…闇に)
弱い自分が見せる幻だとしても。
それを跳ね除ける力はない。
アルベルトはベットから起き上がると、窓から外を眺める。
荒々しく揺れる木々。
そして大粒の雨。
ぽたりとソレが手に落ちて…
アルベルトは、その手の雫を見てハッとし、恐る恐る頬に手を触れた。
しとりと濡れた感触。
いつの間にか泣いていた事に、アルベルトは驚いた。
アルベルトはこんな姿を、誰にも見られたくなくて、そっと部屋から飛び出した。

一人きりで。
丸くなりうずくまる。
何もかも聞こえないよう、そして見えないように耳を塞ぎ目を閉じる。
だが、闇は消えたりしない。
余計に、彼に付きまとうのだ。
こんな時に。
そう、こんな時に姉が居てくれたら。
だけどそれは叶わぬ思い。
姉は、イスマス城を襲撃された時にアルベルトを助け、そして…。
生死すらわからない状態だ。
未だそれは自分のせいだと思っている。
自分がもっと強ければ、と。
「こんな所に居たのか」
ふいに声を掛けられ、ドキリとする。
肩を小さく震わせ、顔を上げると、そこにはナイトハルトの姿があった。
「殿…下」
こんな心が弱くなっている時に。
「出て行ったきり戻らないから…心配したぞ」
優しい言葉。
そしてナイトハルトの手が、アルベルトの肩に触れた時、
アルベルトは気持ちが抑えられなくなり、また泣き始めた。
そんなアルベルトを、ナイトハルトは黙って抱き寄せた。
暖かい、胸で。
おもい切り泣いた。
その間、ナイトハルトはアルベルトの気持ちを落ち着かせようと、髪を撫でてくれた。
その、思いやりがまた、アルベルトの心に響く。
要約、気持ちが落ち着き、アルベルトはそっとナイトハルトから離れた。
「すみませんでした…」
優しさにつけこんで、彼の胸で泣いてしまった事が、今更のように恥ずかしい。
「…つらい時は、一人で抱えるな」
時折見せるつらい表情は、見ている方もつらくなる。
それが、大切な者だとしたらなお更。
「殿下…」
「その為に、居るつもりだが?」
「…ありがとうございます」
その為に旅にもついてきたのだから。
「もっと甘えろ」
と言って、ナイトハルトは再びアルベルトを抱き寄せた。




その日以来、アルベルトは『闇』を恐れなくなった。
それは、ナイトハルトという『光』の存在があるから。
アルベルトは、ナイトハルトをそっと眺める。
すると、今までとは違う気持ちを感じた。
その感情は、彼をシアワセな気持ちにさせてくれるのだ。
今までとは違う、特別な感情。

アルベルトは緩みそうな顔を引き締め、仲間と今日も旅に出るのだった。




★希紫さん、素敵な小説を有難うございました!!! 「ミンストレルソング」の殿下×アルベルト、最高ですよねvvv 私の殿下×アルのイメージそのままで、小説頂いて狂喜乱舞していました。 そんな素敵な小説を書かれる↓希紫さんのサイトはこちらからどうぞ☆