←戻る

------------------------

ずっと……僕の気持ちをはぐらかされていたように思う。
僕はタルが好きだ。
何度もそう言葉にした。
その度に、彼は僕から逃げていたんだと思う。
彼が言う、好きという言葉は僕の言う好きとは違う気がする。
でも、本当は、彼の好きという言葉が僕の好きと同じなんじゃないかとも思う。
いつも……思わせぶりな態度で、僕をその気にさせておいて、何もしない。
なんだか、からかわれているようで……ずるい。
僕の気持ちに気が付いているくせに、何も知らないふりをする。
僕がタルをどういう瞳で見つめているか、気が付いているくせに……。
今だって、一緒に『ハダカの付き合い』をしていた。
手を伸ばせば、タルの身体に触れられる位置にいた。
僕はもう、自分の気持ちを抑えることができない。
だから、日が暮れたら、僕の部屋に来るようにタルに言った。
はっきりさせたかった。
タルの本当の気持ちを知りたかった。
僕の覚悟を知ってか知らずか、タルはいつものように軽く応じた。
「わかった、日が暮れたら部屋にお邪魔するよ」
僕は……この後、タルが嫌いになるかもしれない。
逆に僕はタルに嫌われるのかもしれない。
それは、物凄く怖い。
だけど……はっきりさせなければ、いけないから。


日も充分に落ちた。
タルはまだ現れない。
部屋は薄暗くて、暗闇に目が慣れないうちは、何も見えないかもしれない。
でも僕は、ランプに火を灯す気はなかった。
ノックの音が響く。
「わりい!遅くなっちまったけど、レイ?いるか?」
僕はタルの言葉に返事を返す。
「開いてるから、入って」
扉が開くと、外の明かりで一瞬僕の目がくらむが、タルの姿はちゃんと見える。
逆にタルは部屋が真っ暗で、何も見えないはずだ。
「レイ?どうしたんだ?真っ暗で何も見えね……えっ?」
僕はぼんやりと見えるタルの頬を両手で探り当て、唇を吸う。
身体をタルに押し付ける。
僕の鼓動が高鳴る。
「僕は……タルが好きなんだよ……本当に……好きなんだよ」
囁くようにタルに言って、僕はまたタルの唇をふさぐ。
嫌われても構わない。
今は……僕だけの物だ。
きっと、タルは何が起こったのか、まだ状況がつかめていないはずだ。
僕はタルの首筋に唇を寄せる。
「……んっ」
タルの性感帯なのか、舌を這わせると声が漏れる。
自然にタルの腕が僕の背中に回る。
「……レイ……お前……服は?……一体…………何のつもりだ?」
僕の身体に触れたことで、タルは驚いて僕を引き離そうと強く肩をつかむ。
僕は……生まれたときの姿、だった。
暗闇に目が慣れてきたのか、タルは僕の顔を覗きこもうとする。
抵抗したが、肩をつかまれて僕はタルと正面で向き合わされた。
「レイ……なんなんだよ……」
戸惑いを隠せないのか、タルは僕の眼を見ようとはしない。
「……僕は……タルに……触れて欲しいんだ。僕の全てを……知って欲しいんだ」
僕はタルの右手を自分の胸に押し当てる。
鼓動が一段と高鳴る。
「……僕は……もうずっと前から、タルを見るとこうだった。もう自分の気持ちが抑えられないんだ……僕は……!」
僕の言葉が、タルの唇で遮られた。
「……せめて、ベッドには入らないか?このままじゃ、レイは風邪……引いちまう」
タルはそういって、ゆっくりと僕をベッドのほうへ押しやる。
暗がりでも、タルが乱暴に服を脱ぎ捨てるのが見える。
「フェアじゃないよな〜俺だけ脱がないってのは」
少し声を抑えてはいるものの、いつもと変わらない口調で、タルは言う。
「随分、身体……冷えてるな」
タルは僕をそっと抱きしめて、首筋に唇を寄せる。
ベッドに押し倒されるようなカタチで、僕はタルを受け止める。
「……タルの身体……あったかいね……すごく気持ちがいい……」
タルの大きな手のひらが、僕の身体のあちこちを探る。
「ごめんね……タル……こんなこと…………したく……なかったよね?」
「俺を……本気にさせて……誘ったのは……お前だろ」
タルの手が僕の下半身に触れる。
軽く触れられた程度で、僕は……果ててしまった。
「……ああっ」
「レイ……もう……無理……しなくていい。俺を求める気持ちが本気なんだって、わかったから」
簡単に果ててしまった僕に呆れたんだろう。
タルはそういうと、僕から身体を離してしまった。
僕は……自分が情けなくて、泣いた。
「……ご……ごめっ……僕……タルに……」
「おいおい!なんでそこで泣くんだよ……くそっ、どうすりゃいいのかわかんねえ」
タルは僕に覆いかぶさるように、身体を投げ出して僕の頬にキスをする。
自分の身体のほうが、僕より大きいことを察してか、タルは僕を胸に抱いて受け止める。
自然に僕は、タルの身体に身をゆだねた。
暖かくて厚い胸板に身体を押し当てて、タルの鼓動を感じる。
「……俺さぁ、こういうこと……経験無いから……お前の気持ちがわかっても、
答えてやる自信がなくってさ……このとおり、下手、なんだよ」
タルは僕の頭をなでながら、言いにくそうにつぶやく。
「それに……男同士……だろ?……何していいのか、わかんなくって……
レイが何を望んでいるのかも……全然、わかんなくって……」
「タル、それじゃ……」
僕はタルの目を見て、言った。
「僕のこと……」
「前に好きだって、言ったろ?他の誰でもない……俺は、レイが好きなんだ」
照れくさそうにしながらも、タルは僕の目を見て答えた。
「僕……こんなことして……タルに嫌われるって思ってた」
「さすがに俺もびっくりしたけど……嫌いになるどころか、前より好きになった、かな?
あ、念のため言っとくが……俺、レイだから、応じるんだぜ」
タルは僕をきつく抱きしめる。
人肌の感触が、心地よい。
「僕だって……タルにしか……触れて欲しくないよ」
僕からタルへ、心をこめて……唇に少し長めのキスをする。
「……ごめんね、タル。僕も……こういうこと、タルが初めてで……上手じゃないから」
「あのな〜レイ、レイ以上に、こういうことしたことない俺に言うなよ……自信、失くすだろ〜」
タルから僕へ、優しいキスのお返し。
タルは……普段と同じで、こういうときも優しいと感じる。
また……気持ちが高ぶってしまう。
「……また……お願いしていい……?」
「俺で……構わないなら」
タルが僕の頭をそっとなでる。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに……。
僕はそんなことを、思った。